ディープ・スロート
//スローター

ep.03 - Let the dead bury the dead.

 特命課に大仕事が舞い込んでから、早一週間。ニールとコールドウェルの二人は遺体遺棄現場の周辺住民への聞き込みを改めて重ね、アバロセレンの闇取引に関連があるという者たちを調査するも、思ったような収穫は得られず。また監視カメラ映像の分析をするも、地理的プロファイルを出してみるも、これといって進展を得られないまま。ひとつの遺体は墓地に埋められることとなった。
 そんなこんなでキャンベラ市内、某所。国に尽くし、国のために死んでいった殉職者たちが眠る墓地、バーソロミュー記念霊園。そこでひとつの葬儀がしめやかに、けれども少し騒がしく執り行われていた。
「……アレックス、お前も来てたのか」
「……そりゃ、こっちの台詞だよ。次長が大嫌いだったアンタが、まさか来てるとは。驚きしかないね」
 上下黒のブラックスーツに、真っ白なワイシャツと真黒のネクタイ。靴下も皮靴も黒で揃え、喪服で参列したニールは、黒ずくめの女の横にそっと並ぶ。その黒ずくめの女――つばの広い黒の帽子を頭に被り、さらに帽子から垂れる黒の濃いヴェールで顔を隠し、強いカールが掛かったブロンドの髪をシニヨンにしてまとめ、真黒のフォーマルドレスを着た女――の正体は、コールドウェルだった。
 目を凝らして、初めて内側にある顔が窺い見れるほど濃いヴェールの裏側。コールドウェルの緑色の瞳は、心の底から驚いているようだった。
 ニールは真っ白な棺と、用意された墓石を見つめながら、口をへの字に歪める。それから、彼はコールドウェルに言った。
「一番驚いてるのは、俺自身だよ。まさかパトリック・ラーナーの葬儀に出るなんて、俺が一番予想してなかったさ」
「……へぇ、そうかい」
 ニールが参列した理由には、生前に次長からもらった恩というのも勿論ある。しかしノエミ・セディージョ支局長に来るようにと命令されたことが、一番の大きなきっかけだった。
 支局長の運転手という任務で、ニールはここに来ていたのだ。ゆえに、死者を偲ぶ気持ちがどこまであるのかと問われれば……――へたな嘘が吐けないニール・アーチャーという男は、苦い笑みを思わず浮かべてしまうことだろう。
「あの次長が、死ぬわけがない。あの人はたとえ殺されたとしても、数秒後には文句を言いながら生き返ってそうだって、ずっと思ってたんだ。……けど、人間ってあっけなく死ぬんだな。たとえ、パトリック・ラーナーだとしても」
 まだ閉じられていない棺に向かい、涙を流し、どうしてと嘆き悲しむ者たちを観察しながら、ニールは正直な心情をコールドウェルに零す。すると淑女らしからぬ男気に溢れた腕組みをするコールドウェルが、小声で呟いた。「……ふぅん。アタシはアンタとは真逆のことを、ずっと次長に感じてたけどね」
「真逆?」
「もしかするとアンタの目には、パトリック・ラーナーが真性の悪魔に見えていたのかもしれない。けどアタシの目には、警戒心剥き出しで、虚勢を張って周囲を威嚇し続けて、毛並みを逆立てて、尻尾を亀の子たわしみたいにした、本物の仔猫に見えてたのさ。きっとドクター・サントスも、セディージョ支局長も、親衛隊隊長のジョンソンも、同じことをあの人に感じてたんだろう」
「……本物の、こ、こねこ?」
「図太さとは真逆。数日放っておいたら、すぐに弱って死んでしまうような儚さ、ってところだよ。五〇も目前のオッサンに、こんな感想を抱くのも不思議なもんだけどねぇ……」
 ニールから視線を移したコールドウェルも、棺の傍に佇む者たちを見ていた。そして緑色の瞳が、とある女性の姿を捉える。コールドウェルは過去を懐かしむような、どことなく寂しそうな笑みを口元に湛えた。それから彼女は声を潜めて言う。「……ミランダ・ジェーン。五〇歳を超えても、あの美貌は健在か」
「ジェーン先生? ……あっ、マジだ。本当に変わってないな」
「……」
「あぁ、そっか。ジェーン先生は、パトリック・ラーナーの姉だったんだもんなぁ……」
「……次長の家族は全員長身だってのは聞いてたけど、並んでみると圧巻だねぇ。みんな褐色の肌で、背も高くて、体格もいい。ひとりだけ隔世遺伝で肌が白くて、身長が低くて……。次長はさぞかし、居心地が悪かったんだろうねぇ」
 パトリック・ラーナーという人物の実の姉だった、ミランダ・ジェーンという女性。彼女はニールとコールドウェルが通っていた高校で、ラテン語を教えていた教員だった。その彼女の横には、彼女によく似た家族たちが横にずらりと並んで、ひとつの大きな壁を作っていた。
 父親らしき白髪の老人、母親らしきしわくちゃの老婆、親戚か兄であろう人物が三人、姪であろう若い女性たちが数名、それと甥であろうティーンエイジャーぐらいの若者がひとり。それ以外にも参列者は数十名ほど居た。
 ノエミ・セディージョ支局長と、マレー系の中年の男――精神科医カルロ・サントス――は誰よりも棺に近い場所を陣取り、ちっとも朽ちていない不気味な死体と、最期のハグを交わしていた。その後ろには、ASIの局員らが一般人に擬態して参列している。さらに後ろには、異様で独特な雰囲気を醸し出している男たちの集団――『よく調教された情報提供者』者たち――が、押し寄せていた。
 呆然と立ち尽くす者も居れば、絶え間なく涙を流し続ける者も居て、誰かの胸を借りて泣いている者も居れば、地に膝をついて泣き崩れているものも居る。そこに居た誰もが、ひとりの男の死を惜しんでいた。
 そんな様子を、少し離れた場所から見ていたニールとコールドウェルの二人は、同じタイミングで似たような溜息を洩らす。二人がそのとき考えていたことも、まったく同じものだった。
「……アタシが死んだとき。こんな風に惜しんでくれる人が、どれだけ居ることやら……」
 そう嘆いたのはコールドウェルである。それに対し、ニールはこう返した。
「それな。俺は、シンシアと母ちゃんくらいしか思い浮かばないよ。シンシアの親父さんには貧乏な白人呼ばわりされて、めっちゃ嫌われてるし。それにシンシアのお袋さんにも、何故かめちゃくちゃ嫌われてるし。俺は彼らに、何もしていないにも関わらず。それに……」
「……アタシは誰一人として、そんな顔が思い浮かばないよ」
「俺は、ちゃんとお前を送ってやるよ」
「……はぁ。アタシが死んだときに、その体が残ってりゃいいけどな」
「なんだ、その不穏な台詞は」
「巨大な蒼いドラゴンに食われて、やつの胃袋の中で死ぬんじゃねぇのかって気が、ずっとしてんのさ」
「なんじゃそりゃ。どんなファンタジーの世界に生きてんだよ、お前。トールキンの指輪物語じゃあるまいし」
「だよな。……アタシも、すっかり薄暗闇に頭を毒されてるみたいだ」
 組んでいた腕をだらりと解くコールドウェルは、どこまでも悲観的な重苦しい息を吐いた。その重苦しさに、ニールまで胸が苦しくなる。
 普段のニールであれば今頃、コールドウェルの背中をバシッと平手で叩いて、こう言っているだろう。しゃきっとしろよアレックス、と。しかし今は、そんな言葉をかける気にもなれなかった。彼女を茶化して、からかう気も起きなかったのだ。
 アレクサンドラ・コールドウェル。特務機関WACEという組織に、そして複雑に入り組んだ因果に巻き込まれ、裏側の世界に引き擦り込まれてしまった彼女は、愛とは無縁の世界で生きているようなものだった。
 彼女の両親は生きているが、しかし彼女の両親は彼女が死んだものだと思っている。その証拠に、彼女の母親は娘のために墓まで用意したのだ。骸は埋まっていない、空の墓を。
 つまり彼女に、家族はいない。それにこの先、家族が出来ることもない。そういうことを、特務機関WACEは禁止しているからだ。であるからしてコールドウェルには同僚以外の親しい者がニールしか居ないのだ。
 そして、孤独も同然な彼女がたった今見せつけられているのは、特定の人物に向けられた愛に満ちた葬式。同じ特務機関WACEに所属していながらも、多くの者たちに憎まれつつも愛されていたパトリック・ラーナーは今、多くの者たちに惜しまれ、見送られている。コールドウェルは今、己がいかに孤独であるかを痛いほど思い知らされているはずだ。
 無言になり、立ちすくむコールドウェルの肩に、ニールはそっと腕を回す。それからコールドウェルに、手のひらサイズのポケットティッシュを袋ごと渡した。
「アレクサンダー・コルトに涙は似合わないぞ」
「……アタシは、アレクサンドラ・コールドウェルだっての」
 ポケットティッシュを受けとったコールドウェルは、中から一枚のティッシュを引っ張り出す。安物のティッシュはガサガサとしていて、肌触りが良いとはお世辞にも言えない。しかしコールドウェルはティッシュの品質など気にもせず、頬を伝った一筋の涙を拭い取るためだけに使う。
 それから彼女は、感情の籠っていない平坦な声で、ニールに本音を語った。
「……ラーナー次長には、まだ生きててもらいたかった。アタシにはまだ、あの人から教わらなきゃならないことが沢山残ってるってのに……」





 今晩は帰れるかどうか分からないかも……。
 シンシアにその旨を伝えたニールは、酔っ払いの中年二人を後部座席に乗せ、セディージョ支局長の車を運転していた。つまり、タダ働きの運転代行だ。
 超旧式の、黒塗りの高級車。ニールはがちごちに緊張しながら、高級車のハンドルを普段よりも格段に丁重に捌く。そして普段よりも神経を張りつめ、車外に気を配っていた。
 何故ならば、後ろの酔っ払いがあまりにもうるさくて。彼の心は今にも我慢の限界を超えてしまいそうだったからだ。
「これは全部、夢なんだって。ねぇ、そう言ってよカール! お願い、お願いだからあぁッ!!」
 葬儀は、数時間前に終わっているというのに。未だに泣いて叫んで悲鳴をあげているノエミ・セディージョ支局長の声量は、アルコールが入ったことによりヒートアップしていた。
 ニールは、今までこう思っていた。セディージョ支局長は仕事がデキて物分かりの良い、絵に描いたような最高の上司だと。だが、その印象が木っ端微塵に吹っ飛んだのを、今まさにニールは感じていた。プライベートのノエミ・セディージョはかなり面倒くさそうだぞ、と。
 そしてもう一人の酔っ払い、精神科医のカルロ・サントスも、なかなかの崩れようだ。
「夢じゃない。現実だ。現実なんだよ、ノエミ。俺だって、こんなの、こんなの認めたくないぜ、クソッ……!!」
 彼の場合、人格がプライベートモードに切り替わり、振る舞いが崩れているというよりも、あまりのショックから精神がやや破綻してしまっているというか……。世の中の全てに絶望し、乱暴で投げ遣りになっているオッサン、という雰囲気になり果てていた。そして投げ遣りなカルロ・サントス医師は怒りに満ちた声で言う。
「十日前! パトリックが消息を絶った一時間前まで俺は、アイツと居たんだ。キャンベラの小洒落たイタリアンで、飯を食ってたんだ。まさかその直後にアイツが殺されるだなんて、あの時は微塵も思ってなかった……」
「うわあああああぁぁっ!!」
「俺が、アイツを自宅まで送っていってやりゃ良かったんだ。せめてタクシーでも拾ってやりゃ、こんなことにならなかったはずだ。パトリックは車椅子だったんだ。捕まっちまえば、抵抗もできない。それなのに、俺は、俺は……――!」
「ああぁぁぁぁぁっっ! リッキーの、バカアアアァァァァァッ!!」
「…………」
「どうして、どうしてなの!? いつも、いつも一人でなんでも抱え込んで……。私たちに、なんで相談してくれないの?! どうしてよ、なんでなのよ、リッキー……」
 車は、真夜中の公道を走る。オレンジに光る街灯が暗い夜道を仄かに照らし出してくれている。ニールは明かりとカーナビを頼りに、目的地であるカルロ・サントス医師の自宅を目指していた。
 そしてニールはこのとき、この騒がしい状況を打破してくれる道に誘導してくれる相棒がこの場にいないことを、ひどく恨んでいた。
 生憎、その相棒であるコールドウェルは同伴していない。コールドウェルが、かつての彼女を知る者との接触を極力避けているからだ。そしてコールドウェルにとってカルロ・サントス医師は、彼女にとってはニールで言うところのラーナー次長と似たような存在。過去に少しだけ関係を持った人物なのだ。
「……はぁ、アレクサンドラ・コールドウェルよ」
 幸運の女神に俺は嫌われているみたいだ。代わりに、つまらぬ試練を与えてくれる神に好かれたらしい。
 ニールはそんなことを心の中で零しつつ、運転席の上に取り付けられたバックミラーから、後部座席の様子をちらりと窺い見る。そこではイイ年齢の大人の男女が、ハンカチを片手に号泣していた。
「……アレックス、お前が居てくれればなぁ……」
 ニールはハンドルを握る手の力を少しだけ緩め、軽く脱力する。溜息と共に、付き合いの長い相棒の名前を呼んだ。
 不真面目なコールドウェルは、こういった面倒な状況を切り抜けるのが上手かった。筋金入りの面倒臭がり屋だからこそ、その場から嫌味なくスッと消え去るためのサボり術を心得ているのだ。
 もしこの場にコールドウェルが居てくれていたら。彼女は適当なことでも言って、話題を別の方向に逸らすのだろうか。それともカーラジオを大音量で点ける? または大音量でヘヴィーメタルの音楽でも再生するのだろうか。
 いずれにせよ、大胆さや豪快さに欠けるニールには到底出来ない荒技だ。
「…………」
 俺にも、アレックスみたいな強さがあれば良かったのに。
 ニールの頭にふと、そんな台詞が浮かび上がる。同時に、昼間に見たコールドウェルの涙も思い出された。すると何故か、胸が締め付けられるように苦しくなる。胃の入り口あたりが、きりりと痛んだような気がしたのだ。
 それは悲しさとも、後悔とも、何とも言い難い感情だった。とにかく複雑で、うまく言葉には出来ない。そんなよく分からない感情に、ニールの心が支配される。そしてニールは思った。
 俺が思っているほど、アレックスは強くないのかもしれない。
「……目的地まで、まだ二五キロ弱か……」
 ニールの呟きと共に、車が一時停車する。目の前の交差点に設置された信号に、赤いライトが輝いていたからだ。周囲には人も車も一切見当たらないが、しかしニールは法の下に正義を為す捜査官のひとり。法令を、道路交通法を遵守する。赤信号で発進などしない。それは当たり前のことだ。
 そういうわけでニールは、赤信号が変わるのを待った。待ち続けた。
「……あれっ?」
 ――しかし、一向に信号が変わらない。
「アーチャー、どうしたの?」
 そうして十五分が経過した頃、落ち着きを取り戻したセディージョ支局長も異変を察知し、ニールに問い掛けてくる。ニールは後部座席の方に一瞬だけ振り向き、支局長に答えた。
「信号が、いつまで経っても変わらないんですよ。故障でもしてるんですかね」
 すると支局長は言う。「なら進んじゃえ。どーせ周りに車も歩行者も居ないんだし」
「支局長。ちょっと、それは、あの……」
「あら。アーチャー、あなた随分と真面目なのね。若い頃のカールにそっくり。私なんか、びゅんびゅん車を飛ばしちゃうタチだったんだけど」
「いや、そういうわけには……」
 と、そのとき。支局長の携帯電話が着信音を鳴らす。こんな時間帯に誰かしら。支局長はそう言うと、着信に応答した。
「こんばんは。こんな遅い時間に、どなたかしらぁ~? ……って、あら。エージェント・コールドウェルじゃない。どうしたの。何か問題でも起きた? ……えっ。あぁ、分かったわ。スピーカーにするわね」
 エージェント・コールドウェル。支局長の口から出た名前にニールは眉間に皺を寄せる。その後ろで支局長は通話をスピーカーに切り替えた。
 すると携帯電話からはそこそこ大きな音で、コールドウェルらしき声が聞こえてきた。
『ちょっとばかし厄介な問題が起きちまったもんでさ。うちの仲間が信号を操作して、あんたらの動きを止めているんだ。今、アタシがそっちに向かってるから、しばらくその場で待っていてくれ。頼んだよ、ニール・アーチャー。それと、ドクター・サントス。それじゃ、切るよ』
 ぶつっ。一方通行な会話のあと、通話は一方的に切られる。これだからアイツは、と呆れるニールは蟀谷を掻いた。
 そして後部座席でカルロ・サントス医師は、表情を険しくさせている。聞き覚えがあるような気がする声に、彼は不穏な気配でも感じたのだろう。
 そうして更に五分ほどニールは待った。やがて交差点の角からコールドウェルらしき人影が現れる。人影はこちらに手を振り、そして車に近付いてきた。
 やってきたのは、やはりコールドウェルだった。昼間に着ていた喪服から着替え、標準装備の黒スーツ姿になっていた彼女は車に近付くと、助手席側のウィンドウを指で叩く。ニールがドアロックを解除すると、コールドウェルは助手席に乗り込んできた。それから彼女は、申し訳なさそうな素振りは一切見せずに言う。
「夜分にすまない」
 すると後部座席のカルロ・サントス医師が頭を抱えた。うぅむ……と唸る彼はコールドウェルに言う。
「パトリックから、それらしい話はなんとなく聞かされていた。……やはり君は生きていたんだな、アレクサンダーくん」
「その話はあとにしましょうぜ、ドクター」
 助手席にどかっと座るコールドウェルはそう言うと、緑色の瞳でカルロ・サントス医師をちらりと見る。けれども彼女はすぐに視線をニールに移した。そしてコールドウェルは命令するように言った。
「ニール。行き先を変更してくれ。最寄りの市警察署に出向いちゃくれないか」
「そりゃ、どうしてだ?」
 駄目もとで、ニールはコールドウェルに理由を尋ねる。しかし反応はニールが予想した通りのものだった。
「理由は今に分かるさ。とにかく車を走らせてくれ」
 コールドウェルはニヤリと笑う。そんなコールドウェルをニールは睨むような目で見た。その瞬間、信号機のライトが赤から青に切り替わる。そして同時に、今度はカルロ・サントス医師の携帯電話が着信音を鳴らした。
「さぁて。ドクターに一仕事してもらおうじゃないか」
 ニールがアクセルを踏んだとき、コールドウェルがそんなことを言った。そしてカルロ・サントス医師は電話に応答し、すぐに切る。カルロ・サントス医師は訝るような目で助手席に座るコールドウェルの背中を見ていた。
「……アレクサンダー。どうして君は、警察署から私に連絡が来ると分かったんだ」
 カルロ・サントス医師のその言葉に、支局長は目を見開く。ニールは「またか」というような顔をしていた。
 そして、したり顔のコールドウェルは言う。
「アタシにも分からないよ。ただ、アタシのところに、現在失踪中のペルモンド・バルロッツィからメッセージが来たんだ。カルロ・サントスを連れて警察署に向かい、子供を連れ帰ってこいって」


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