EQPのセオリー

16

「イーライ・グリッサム、か……。端的に言うならば、無秩序型の愉快犯。大人の女性は相手をしてくれないし、売春婦を買う金も所持しておらず、そうやって持て余した性欲を力の弱い子供で晴らそうとした、代替としてのペドフィリア。つまり弱い者いじめの腐れ外道でしたね。秩序型と違い知能は低く、IQも七〇あるか無いかという程度」
「あの事件はある意味において、犯人の知能指数が低かったことにより掻き乱されたようなものだったな。犯行には決まったパターンがあったため、ヘレン・ガードナーは秩序型であり犯人のIQが高いと判断したが、実際はその真逆。決まったパターンがあったのは犯人がIQの低い知的障害者であったからだった。……知的障害者は決まったパターンを好み、パターンを掻き乱されると混乱し、誰にも予想できない暴挙に出る。そして彼のパターンを妨害し混乱を誘発してしまったのは、私たち捜査部だった。混乱した犯人にはそれまでのパターン性が無くなり、行動の予測は一時的に不可能となった。まったく予想もしていなかった場所で事件が起きた時には、私までも混乱したものだ」
「あのときヘレン・ガードナーは、犯人の予測が出来なくなったのは犯人の頭が良いからだと言っていましたね。捜査を撹乱するために、わざとやっているに違いないと。けれどカルロは、真逆のことを言ったんですよ。さっきのようなことをね」
「そうだ。無論、ヘレン・ガードナーには叱責されたがね。だが、結論を言うと私のほうが正しかった」
「カルロのほうがあの時は冴えてたんですよ」
「その後、私は今までのデータを基に、犯人が次に生み出すであろうパターンを予測した。共に捜査に臨んでいた、新鋭の数学者と共にね。そして私と数学者は次の犯行が行われるであろう場所を絞り出した。――んだが、それを盗み見たパトリックが勝手な行動をした。こいつは一人で無謀な行動を取ったわけだ」
「そうして私が、イーライ・グリッサムを逮捕したのです」
 パトリック・ラーナーは誇らしげな様子でそう言う。しかしその横で、上等なブレンドコーヒーを啜るカルロ・サントス医師は、何かもの言いたげな視線をパトリック・ラーナーに向けていた。それからカルロ・サントス医師はコーヒーカップを机の上に置くと、パトリック・ラーナーに視線を送る。するとカルロ・サントス医師はパトリック・ラーナーを揶揄するようなことを言った。
「正確には、逮捕したのはノエミ・セディージョだ。馬鹿やったお前の尻拭いをした彼女こそ、真に褒め称えられるべき英雄だろう」
「ノエミが? ご冗談を」
「おいおい、その言葉を彼女に聞かれても知らないぞ。お前のために彼女があのとき、どれだけ神経をすり減らしたことか……」
 そうしてワイワイと二人のおじさんが昔話に興じている一方。カルロ・サントス医師の横に座っていたアレクサンダーは、彼らの話を黙って聞きながら、一冊の分厚い本を読んでいた。
「ところで、パトリック。お前はあのとき、イーライ・グリッサムに襲われたんじゃあなかったのか?」
「ンなわけないでしょうが。急に何を言い出すんだか……」
 ハンス・ゲオルク・ガダマー著、真理と方法。そう書かれている本の背表紙を、困惑した表情でじっと見つめているのは、ニール・アーチャーだ。パトリック・ラーナーの横に座る彼は、四〇代のおじさん二人が交わしている耳を塞ぎたくなるような過激な話を、肩身を狭めて気配を消して、なんとか聞き流そうとしていた。
「私はてっきり、お前があのときに耐えがたい屈辱を味わい、その事実を知られたくないが為に黙っているとばかり思っていたのだが……そのような行為は、されてなかったというわけか。つまらんなぁ」
「つまらん?! 人のピンチを、あなたって人は一体なんだと――」
「男のピンチは愉快なショーだ。悲劇であればあるほど、面白い。女性が男性に虐げられるという話は大体胸糞悪いが、男が男に酷い目に遭わされるというのは、意外な結末になることがあってね。クレヅキ・ヤヨイという女流作家の小説『ウォーター・アンダー・ザ・ブリッジ』というのは実に興味深い物語だった」
 怪しく嗤うカルロ・サントス医師が、とある小説の名前を出したときだ。それまで手元の本に視線を落としていたアレクサンダーが顔を上げる。すると彼女はおじさん二人組の会話に割り込み、こう言った。「あぁ、ウォーター・アンダー・ザ・ブリッジ。たしかに、あれは興味深い物語でしたね」
「うそだろ、アレックス。俺もあの小説は知ってる。けど、俺はイカれてると思ったよ」
 居心地の悪さからなのか、そう反論するニール・アーチャーの声はどこか緊張により上擦っている。アレクサンダーは変に高くなった声と、赤くなっているニールの顔にクスッと笑う。それから彼女は読んでいた本をパタンと閉じた。
 すると、顔を赤くしたニールはぎこちなく喋る。「だって、あの話はゲイの男の家に転がり込む羽目になった主人公の男が、酷い目に遭わされる話だろ?」
「いや、そうでもないよ。主人公自身は、自分が酷い目に遭わされたとは思っていない。それにゲイの男ってのはレイモンド・バークリーのことを言ってるんだろうけど、レイモンドはゲイじゃなくてバイ」
「……俺は最初の数十ページで脱落したから、そこまでは分かんねーよ」
「なら、あの小説の面白さなんか理解できるはずもないよ。同居初日に起きたひどい出来事のあと、主人公は少しずつレイモンドに惹かれていくんだからさ。田舎には将来を誓い合った彼女が居るっていうのに、一瞬だけだとしてもルームメイトの男に目が移ったなんて、主人公はけしからん男だよ」
 ハハハッと笑いながら話すアレクサンダーに対し、その話を聞くニールの顔はひどいもので。ニールからアレクサンダーに向けられる視線には、嫌悪や恐怖といったマイナスの感情が入り混じっていた。
 けれどもそこに、アレクサンダー以上の化け物が口を挿んでくる。カルロ・サントス医師は向かいに座るパトリック・ラーナーを凝視し、にこにこと笑いながら言った。
「あの小説の場合は、レイモンド・バークリーという男が境界性パーソナリティの要素を少なからず持っていることも大きく起因しているが……現実でも、似たような症例を見たことがある。初めは知り合いの男に襲われたと言って、私のもとにPTSDの治療を求めてきたのに、二週間ほどで治療を無断中断し、二ヶ月後に戻ってきたかと思えばその相手と同棲を始めて付き合うことになったから治療を終了してほしいと笑顔で告げてきた男がいたよ。私も精神科医を十五年ほどやっているが、あれを超える衝撃は未だに無い」
「やめてください、カルロ。そんな話は聞きたくありません」
 パトリック・ラーナーはカルロ・サントス医師を睨みつけながら、キツイ口調でそう呟く。その横でニールはそわそわと挙動不審な振舞いを見せながら、無言でミルクセーキを啜っていた。
 そんなニールを見るアレクサンダーは、彼に声を掛ける。「どうしたんだよ、ニール」
「……い、いや、別に。何でもねぇよ」
 ぶっきらぼうにそう答えるニール・アーチャーだが。彼は今、困惑していた。なぜなら今朝の彼は、このような状況になると想定していなかったからだ。
 ニールは先週、アレクサンダーをデートに誘った。一緒にティラミスを食べに行こうぜ、と。彼女がそのことをどう捉えたのかは知らないが、とにかく誘いは断られた。そのはずだった。
 だが、そんな状況も一変する。昨日になって急にアレクサンダーは「この間の誘いはまだ有効か?」と訊いてきたのだ。ニールは勿論、こう答えた。当り前だ。
 ニールは期待していた。アレクサンダーと久々に二人きりで出かけられることを。迷惑を掛けたし、ごたごたもあったし、そういうわけだから全てをチャラに出来ればなとか、以前のような互いに腹を割って話せるような関係に戻れればいいなとか、それ以上に進展出来ればいいなぁだとか、彼なりに色々と考えていたのだ。今朝、家を出るまでは。
 だが、それがどうだ! アレクサンダーが指定した店にニールが入ってみれば、そこで待っていたのはオッサン二人だ! それもそのうちの一人は、あのパトリック・ラーナー!! そのうえアレクサンダーは、パトリック・ラーナーとやたら親しげに喋っている! カルロ・サントスとかいう医者もよく分からん! 何がどうなってやがる?! アレックス、お前はこのジジィどもとどういう関係にあるんだ!?
「……」
 そしてさっきから聞かされるジジィどもの思い出話と言えば、とても聞けたもんじゃない話ばかりだ。食人鬼と呼ばれた人肉嗜食のドミトリー・クレスチヤニノフの話といい、年端もいかぬ少年ばかりを狙って誘拐したというジークリット・コルヴィッツというイカれた女の話といい、イーライ・グリッサムの話といい、なんといい……――。よりによってアレクサンダーが、そういった質問ばかりをジジィどもに投げつけている。
 どうしたんだ、アレックス。俺が知ってるお前は、どこに行っちまったんだ?!
 ――そういうわけでニール・アーチャーは混乱してた。だが、おじさん二人の視界には戸惑い顔の青年は入っていないらしい。
「そういえばだ、パトリック。お前、ノエミとはどうなってるんだ?」
「……カルロ・サントス。あなたには関係のない話ですよ」
 よりにもよって、ここは昔ながらの渋いカフェ。客は自分たち以外に誰も居らず、ましてや最近流行りのティラミスなんかない。あるのは、店主がこだわりぬいた最高に美味しいコーヒーと、コーヒーとは裏腹にさほどこだわって作られてはいないパサパサの凡庸なマフィンぐらいだ。
 ニールはこの状況に混乱していたし、落胆もしていた。何故、自分がここに居るのか。それが彼には分からなくなっていたからだ。
 アレクサンダーと二人きりになって、色々と話したいことがあったはずだ。それなのにアレクサンダーはジジィの話を聞きながら、楽しそうに笑いつつ、なんだか意味の分からない分厚い本を読んでいるだけ。ニールのことなど眼中にないといった様子だ。
 何もすることがないニールは、肩身の狭い思いだけをただ味わっていた。すると、そんなニールの肩をポンポンっとパトリック・ラーナーが叩く。君を巻きこんでしまって本当にすまないと思ってるんだよ。パトリック・ラーナーはそう言うと、次に彼はジャケットの裏から一冊の手帳を取り出す。そして彼は取り出した手帳をカルロ・サントス医師に渡すと、次にニールのほうに向いた。それからパトリック・ラーナーは不自然なほどにこやかな笑顔を見せると、このようなことを言う。「ニール・アーチャー。実は君に頼みたいことがありましてね」
「……と、言いますと?」
「なにも難しいことじゃない。そこの彼女、アレクサンダーを、私の仕事が終わるまでここに縛り付けておいてほしいんだ。それと、カルロ・サントスのお守も頼みましたよ」
「えっ」
 ニール・アーチャーは、ますます混乱した。そしてアレクサンダーも驚いた様子で、パトリック・ラーナーを見つめていた。
「えっ、あっ、アタシをここに縛り付ける? どういうことです、ラーナー次長」
「私の仕事が終わるまで、この店から出ないでほしいっていうだけですよ。アーチャーが君の監視をする。そしてカルロは魔除けのタリスマンみたいなもんですかね」
「私が魔除けだと?」
 カルロ・サントス医師も、パトリック・ラーナーを疑うような目で見る。するとパトリック・ラーナーは先ほど渡した手帳を指差すと、こう言った。
「その手帳は、ブリジット・エローラの手帳。三冊目です。あとで返していただけるのなら、これは好きに読んでくれて構いませんよ」
「いや、彼女の手帳なら全てを読み終えている。今更、別に三冊目を渡されたところで……」
 カルロ・サントス医師は首を傾げる。ニール・アーチャーも首を傾げる。けれども、アレクサンダーだけは「あっ!」と声を上げた。彼女だけは『魔除け』の意味を理解したのだ。そして、自分が店の外に出てはいけないという理由も察した。
 するとパトリック・ラーナーは芳しい答えを寄越さないカルロ・サントス医師にしびれを切らす。パトリック・ラーナーは本当のところを、カルロ・サントス医師にこっそり打ち明けるのだった。
「……実を言うと今、この近辺にあの男が潜んでいるみたいでしてね」
「あの男というと、ペルモ……――!」
 その言葉を盗み聞いたアレクサンダーが余計なことを言いかけたとき。彼女の口をパトリック・ラーナーが塞ぐ。それから彼はアレクサンダーを鎮めるようにこう言った。
「ええ、そうです。アイツです。それで、あの男は大の精神科医嫌いでしてね。精神科医でありながら、自分に対して異常な興味を抱いている人間となれば、彼は接触を意地でも避けるはずです。つまりですね、カルロ。あの男は、あなたにだけは絶対に近寄ってこないんです」
「なっ!? わっ、私は是非ともお会いしたいと」
「それだけは絶対に無理だと言い切れるでしょうねぇ。ですのでカルロの傍に居れば、君たちの身の安全は保証できるというわけです。あの男は危害を加えてこないでしょう。だから今日、ここにお呼び出ししたというわけです」
 要するにカルロ・サントス医師は強力な忌避剤なのだ。彼の傍にいる限り、彼を嫌う魔物は――つまりペルモンド・バルロッツィは――近寄ってこない。だから今はカルロ・サントス医師の傍から離れるな、と。パトリック・ラーナーはそう言いたいのだろう。
「近くで私の同僚も待機してることですし、ここは安全でしょう。なので、私が戻ってくるまでは絶対に、この店の外には出ないで下さい。分かりましたか、特にアレクサンダーさん」
 念を押すように、パトリック・ラーナーはくりっとした大きな目で、アレクサンダーのことを凝視する。それに対してアレクサンダーが無言でこくりと頷くと、彼は店の外に出ていった。
 ――そうして、かれこれ一時間が経過した。
「なぁ、アレックス」
「なんだよ」
「このオッサン、大丈夫なのか?」
「ドクターのことなら、至って普段通りだよ」
「あぁ、そうなのか。おう……」
 本も読み終え、ついにやることが無くなったアレクサンダーは、退屈そうに天井を眺めながら、耳を(そばだ)てる。ニールもだらけた姿勢で天井を仰ぎ、念仏を唱えるように呟かれるカルロ・サントス医師の独り言を聞き流していた。――が、独り言を延々と呟くカルロ・サントス医師のことがどうにも気になって仕方がない。ゆえにニールは言った。
「マジであのオッサン、大丈夫なのか?」
「だから気にするなって」
「気にするなって言われてもよ、無理だぜ。どうしても気になるっての」
 古びた手帳を食い入るように見つめ、独り言をぶつぶつと呟きながら、カルロ・サントス医師はページを捲る。そのスピードは、トランプのカードほどの大きさがある手帳の見開きページを約一分くらいで読み切るというハイペースさだ。
 その様子をニールは「うわぁ……」と、巨大な昆虫でも見るような目つきで観察していた。
 そんなニールとは打って変わり、アレクサンダーのほうはカルロ・サントス医師の独り言を注意深く聞いていた。可能な限り耳を澄ませて、小さく不明瞭な声で囁かれる言葉をひとつでも聞き逃さないよう、彼女は意識を集中させていたのだ。
「……彼女の目が節穴だったのか、師匠の言い分が間違っているのか。同じ患者の話であるにも関わらず、こうまでも食い違うとは。改めて読むと違和感しかないな。もしや、この手帳、実体験や日記ではなく、虚構の出来事を記したフィクション、いや、彼女の妄想なのでは? そうだと仮定するなら筋が通る。しかしそうだとしたら、なぜこんなもののために、あのような事件が……?」
 そう呟くカルロ・サントス医師は、表情を険しくさせていく。その様子を見るニールは得体の知れない恐怖に身をぶるりと震わせた。しかしアレクサンダーはカルロ・サントス医師と連動するように眉を顰めていた。
 そんなときだった。研ぎ澄ませていたアレクサンダーの聴覚が、予想外の声をキャッチする。
『イヤだ! おじさん、こわいよ! 近付かないで!!』
 助けを求める少女の声。それを聞くなりアレクサンダーは即座に立ち上がり、まともに考えることもせず、衝動に身を任せて外に飛び出ていく。なぜなら、その声に聞き覚えがあるような気がしたからだ。
 ――あの悲鳴、ユンにそっくりだ。
「おい、アレックス! ちょっと待て、お前どこに行く気だよ!!」
「ユンの悲鳴が聞こえたんだ、放っておけないだろ」
 引き留めるニールの声をアレクサンダーは切り捨てると、店の外へと飛び出す。そうしてアレクサンダーは目の前に広がる大通りを見渡した。彼女は人混みの中をくまなく観察し、そして声の主と思える少女を見つける。
 路地裏に向かって逃げるように消えていく、白い髪の少女。背丈はちょうどユンやユニの双子と同じくらいで、遠巻きから見えた横顔は彼女たち姉妹に、特にユンにそっくりだった。しかし白い髪の少女を見つけられなかったニールは、アレクサンダーの言葉を否定する。「なに言ってんだよ、バーカ。あの子は病院のベッドの上だ、こんなとこに居るわけがないだろ? 幻聴じゃないのか」
「今、あの子の背中が見えたって言ってもか?」
「つい最近、学校でぶっ倒れたやつの言葉なんか誰が信用するか。アレックス、お前は疲れてんだよ。だから幻聴を聞いて、幻覚でも見たんだろ?」
 ニールはそう言うが、しかしアレクサンダーは見ていた。白い髪の少女を追いかけ、同じ道に消えていった男の背中を。黒い帽子に黒いコート、黒縁眼鏡に不精髭、鷲鼻で蒼い瞳をしていた、あの男の姿を。
「……話にならない」
 手首を掴み、制止を求めたニールの手を、アレクサンダーは強引に振り解く。そしてアレクサンダーはニールに背を向けると、大通りを渡り、少女と男が消えていった路地裏へと走っていった。
「アレックス、行くな!! 待てって、おい!! ……クソッ。あのバカ野郎、なに考えてんだよ!!」
 右手をぎゅっときつく握りしめたニールは、アレクサンダーが向かった方角をキッと睨む。彼は一度振り返り、カルロ・サントス医師が手帳に夢中になっているのを確認すると、自分も彼女の後を追いかけようとした。
 だがそんなニールの前に、障害が現れる。ニールが再びアレクサンダーの向かった方角を見たとき。ついさっきまで誰も居なかったはずの彼の目の前には、いつの間にか人が立っていた。黒い背広に身を包み、黒いサングラスで目を隠した、枯草色の髪の男がニールの前に立ち塞がっていたのだ。
 すらりと細く、それでいて長身で、まるで鋭く尖れた長剣のようなオーラを放つその男の佇まいに、圧倒されたニールは息を呑む。すると、ニールの前に立ちはだかる男はこう言った。
「我々の手を煩わせるような真似は控えてくれ」
 ニールよりも幾分か背が高かったその男は、ニールを見下ろしている。彼がどんな目をしているかなど、サングラスが邪魔で分からなかったが、ニールはその視線に違和感を覚えた。
 今こうして目の前にいる人物は、まるで……――なんだ? とにかく人でないものを相手にしているような、畏れにも近いものをニールは感じていた。そして、ニールの前に立ちはだかる男は再度ニールに言う。
「君は今すぐ、元居た場所に戻りなさい。アレクサンダー、彼女はもう手遅れだ」
「手遅れだって? それじゃまるでアイツが」
 目の前に立つ正体不明の男が発したその言葉に、瞬間ニールは怒りを覚えた。そうしてニールは食って掛かるも、それも長くは続かない。次の瞬間、ニールが覚えていたのは怒りではなく恐怖だった。
 男がニールの前でサングラスを外し、露わになった目を一瞬開け、閉じたのだ。
 ニールは男のその顔に見覚えがあった。そして男の目が、人間のそれとは異なっていることに気付いた瞬間、ニールの足ががくがくと震え始めていた。すると男が言う。
「……これ以上は浴びたくないだろう? なら、今すぐ下がりなさい」
 男の蒼白い瞳には、瞳孔が無かった。いや、そもそもあれが瞳だったのかすら怪しい。瞳のように見えていたあの蒼白い部分が実は瞳孔で、男の眼球の中に渦巻いて見えた蒼白い光は、血液中に溶けたアバロセレンが放つ燐光だったのかもしれない。
 そして男の顔は、教科書で見たことがある死人に酷似していた。教科書に載っていた大罪人、アバロセレン発電所を暴走させて街一つを吹き飛ばしたとされている男に。
 それから、男が目を開けて人ならざる目でニールを見てきたとき、ニールにはその一瞬だけ声が聞こえてきた。それは身の毛もよだつようなおぞましい声の集団。生けるもの全てを呪い、恨みを募らせる呪詛のような響き。たった一瞬それを聞いてしまっただけで、腹の底が冷えていく感覚を彼は覚える。――ニールはすっかり猛る心を削がれてしまったのだ。
 そうして呆然とするニールに、男は言う。
「アレクサンダー・コルト。彼女のことは忘れなさい。何があっても決して追及してはならない」
 男は最後にそれだけを言うと、ニールの肩に手を置く。白い綿手袋をはめていた手はどこまでも冷たく、血が通っていない死人であるかのようだった。それからすぐに男はニールから手を離すと、サングラスを再度着用して目を隠した。
 するとそこに、慌てふためいた様子のパトリック・ラーナーがやってきた。パトリック・ラーナーは枯草色の髪の男を見ると、緊張した面持ちで顎を引く。そしてパトリック・ラーナーはサングラスを着けた男に報告をした。
「ケイが奇襲を食らって、やられました。例の荷物も、あの男に持ち逃げされたようです。そしてルーカンはジャミングを喰らっています。そして荷物に取り付けられたビーコンは沈黙。追跡は不可能です。また、今のターゲットは相当殺気立っています。迂闊に近寄るのは危険かと。あの、例の別人格で……」
「ラーナー、ヤツの装備は確認できたか?」
 サングラスを着けた男は、パトリック・ラーナーにそう尋ねる。するとパトリック・ラーナーは頷き、こう答えた。「私が確認できた限りでは、拳銃が一丁のみ。防弾チョッキのようなものは」
「いつも通り、身につけていないんだな? ――私があれを足止めする、その隙にお前は彼女を回収しろ」
「ですが、あの男は」
 パトリック・ラーナーは何かを言いかけたが、途中で言葉を止めた。ニールの存在に気付いたということもあったが、それよりもサングラスを着けた男が放つ並々ならぬ殺意を感じ取ったということのほうが大きいだろう。殺意の矛先が自分に向かぬよう、余計な言葉を呑みこんだという感じだ。
 そしてサングラスを着けた男は殺気に満ちた声でパトリック・ラーナーに指示を出す。「ラーナー、裏通りの先に車を回せとアイリーンに伝えろ」
「……イエス、サー」
 パトリック・ラーナーは不服気な顔をしながらもそう答えると、大通りを渡って建物の影へと消えていく。そして緊張から動けなくなったニールが、やっとの思いで瞬きをしたときだ。
 ニールが目を閉じ、そして再び開けた時には既にサングラスを着けた男の姿はニールの目の前に無かった。まるで亡霊でも見ていたかのように、忽然とその男は姿を消していた。





 ニールがサングラスの男に睨みを利かされていたときのこと。厄介な事情に首を突っ込み、人気もない路地裏に入り込んでいたアレクサンダーはこのとき、生まれて初めて銃口を向けられていた。
 彼女の前に立ち、彼女に銃口を向けていたのは、先日はニールを助けてくれたはずの男。黒い中折れ帽に黒いトレンチコートを合わせ、全身を黒いコーディネートで包んでいたペルモンド・バルロッツィだった。
「……バルロッツィ高位技師官僚」
 害意に満ちた銃口を向けられている。その緊張感から、発せられたアレクサンダーの声はすっかり震えていた。その一方で、彼女に銃口を向ける男は表面的な薄ら笑いを浮かべている。そして男はアレクサンダーにこう言った。
「悪いな、いたいけな少女よ。生憎だが今の俺はヘタレの高位技師官僚じゃあない。ガキだろうと情けは掛けないぞ」
 男はそう言いながら、拳銃に銃声を消すサイレンサーを装着する。それから拳銃の安全装置を解除すると、男は浮かべていた冷たい笑みを消した。
 中折れ帽の下、眼鏡から覘く彼のその目は虚ろで光がなく、また彼の表情に覇気はない。その様子を確認するなり、アレクサンダーは思い出した。高位技師官僚を演じる兵士、そう言っていたパトリック・ラーナーの言葉を。
「……」
 散々警告を無視した末の、これだ。遂に殺されるかもしれない。――アレクサンダーはそう覚悟を決め、息を呑む。それから彼女は男の後ろに座り込む白い少女を見やった。
 白い少女は、右脚の太腿の動脈付近にコンバットナイフを刺されている。少女は右脚を庇うように座りながら、小さな声で痛い痛いと泣きじゃくっていた。
 そんな少女の目鼻立ちは、ユンとユニの双子によく似ていた。というよりも彼女らそのもののように見えていた。だが、その少女は双子のどちらでもなかった。顔や体はあの双子たちとまるで同じだが、中身が異なっている。そんな感じだ。
 あの双子たちは年相応の振舞いをしていたのに対し、今そこにいる少女の振る舞いはまるで四歳児。見た目はハイティーンの少女だが、その言動は外見に伴っていないのだ。
「おい、お前。何をじろじろと見ていやがる」
 銃口を向けられていながらも、銃口を向けている人物の背後にいる少女を注視するアレクサンダーを、銃口を向けている男は問いただす。アレクサンダーは正直に、彼女が思っている疑問を発した。「そこの女の子は何なんだ? まるであの双子にそっくりだ」
「お前、まさか何も知らずに飛び込んできたのか? ハッ、俺も随分と虚仮(こけ)にされたもんだぜ……」
 男はそう言うと、虚ろな目を伏せて溜息を零す。――次の瞬間、男の背後に座り込む少女が悲鳴を上げ、それと同時にアレクサンダーはその場に伏した。
 それは一瞬の出来事だった。白い少女は右腕の肩口を音もなく撃たれ、直後アレクサンダーは下腹部を撃たれたのだ。常人には見切れない早さで繰り出された早撃ちに、アレクサンダーは痛みに苦しむよりも前に驚愕する。かつてニールを守ったその技術は、今度はアレクサンダーを傷付けるために揮われていたのだから。
 それでもアレクサンダーは己を奮い立たせ、よろよろと立ちあがると、撃たれた脇腹を右手で庇うように押さえつける。主要な動脈にこそ銃弾は掠っておらず、致命傷を負ったわけではなかったが、だからといって痛みが無いわけではない。だが、彼女は痛みを堪えた。
 アレクサンダーのその様子を見た男は、ハッと高笑う。それから男は抑揚のない平坦な声で、無関心そうにこう言った。
「撃たれてもなお立ち上がるとは、見上げた根性をしてんじゃねぇか、おい。大半は、ぷるぷる震えながら失禁するか、大泣きしながら情けを乞うもんだぞ?」
「お褒めに預かり、光栄です……ッ!」
 傷口から湧き出る温い血は、あっという間に傷口を押さえるアレクサンダーの手を赤く染め、熱いくらいに手を温めた。彼女が少し体を動かすだけで、体内にめりこんだ銃弾が周囲の筋組織を傷つけ、痛みが増していく。
 アレクサンダーとて、出来ることなら「助けて下さい」と慈悲を乞いたかった。痛いと涙を流したかったし、漏らしそうなのを今は必死で我慢しているところである。
 けれども、それらをしてしまったら最後、この男に負けを認めることになる。それに慈悲を乞うて通じる相手には思えなかったし、ここで泣き叫べば面白がられて、更に痛い目に遭わされるだけな気がしていたのだ。
 すると男は、ニヤリと笑う。彼は後ろで泣いている少女の髪を乱暴に掴んで立たせると、アレクサンダーに向けて言った。
「何も知らない優秀な生徒には特別に、こいつの正体を教えてやろう。こいつは、アバロセレンを用いた錬金術により生み出された人工生命体。人造人間(ホムンクルス)と呼ばれるものだ」
「……ホムンクルス?」
「テレーザ・エルトルという研究者が偶発的に作り出しちまったものだ。お前だって、その第一号と第二号のことはよく知っているはずだぞ?」
「何のことだか、さっぱり……ッ」
「人工生命体。U番、一号と二号」
 痛い、いやだ、やめて、離して。ぎゃんぎゃんと泣き叫んでいた白い少女の声が、しかし男の言葉とともにぱたりと止む。男は次の言葉を発すると同時に、少女の首をへし折ったのだ。
「通称、ユンとユニだ。あの双子は人間じゃあない。生みの親であるテレーザはそれを知っていた。だがテレーザの暗殺後、双子を引き取って育てた彼女の弟夫婦は何も知らない。レーニン・エルトルも、エリーヌ・バルロッツィも、よもや養子として迎え入れた双子たちが人間ではない化け物だとは思ってもいないだろう」
 首がありえない方向にねじ曲がった少女の骸が、力なく地面に落ちていく。そして少女の骸は淡い光を放つと、刹那、青白い燐光を輝かせる粒子となって消散していった。――その様子を見届けた後、男は言う。
「人間が灰から出でて灰に還るように、こいつら人間もどきは、活動限界を迎えるとアバロセレンに還る。出来損ないは酸素に触れた途端に一瞬で気化し、今の個体のように不安定な個体ならば一週間ほどで活動限界を迎える。あの双子も、仕組み自体は今の紛い物と同じだ。けれども、あの双子だけは特別なんだ」
「…………」
「他の紛い物がただのハツカネズミならば、あの双子は遺伝子組み換えがなされたノックアウトマウスだ。イミテーションのゲノムから余計なものを取り払い、優良な遺伝子を加えた、完全無欠の生命体。オリジナルである人間に限りなく近い、完璧なイミテーションなのさ。――まっ、片方は偶然生まれた失敗作なんだがな」
 アレクサンダーの顔からは、血の気が失せていく。銃創からの失血も原因の一つだったが、それよりも憎悪のほうが理由としては勝っていた。
 まるで生命を軽んじる行いだ。今、彼女の目の前で語る男の振る舞いも、そしてホムンクルスという存在と、それに関与する者たちのことも。怒りを覚えずにいられるわけがない。
 怒りに震えるアレクサンダーが表情をより険しくさせると、男はそんな彼女に憐憫の視線を向けてきた。それから男はアレクサンダーに言う。
「しかし、ホムンクルスは禁忌の存在だ。ヒトクローンと同じ、本来は存在してはならぬもの。元老院の連中も、ホムンクルスの扱いに困っているらしい」
「……だから、殺すのか? ユンも、ユニも」
「あの双子にだけは手を出すなとお達しが出ている。だが、それ以外のゴミは処分しろと命じられている。事実を知った者も全員、残らず葬れとも」
「高位技師官僚、あんたは一体なにを」
「道具の本分を果たすのみ」
 再びアレクサンダーに向けられた銃口は、アレクサンダーの左胸に狙いを定めていた。
「任務を終えるまで、与えられた役を演じ切るだけだ」
 感情の籠っていない声で、男はそう言う。その瞬間、男の目は緑色に輝く。虚ろな蒼い瞳が、いつの間にかギラギラと光る緑色の瞳に書き換わっていたのだ。
 緑色の瞳を宿す、その男。彼の様相のどこにも“ペルモンド・バルロッツィ”という人物の面影は見られない。同じ顔、同じ体をしているにも関わらず、まるで別人だった。
「そんなの、空虚じゃないか。アンタはまるで空っぽで、それに……」
 震える声で、アレクサンダーは呟く。するとその言葉を、男は鼻で笑った。
「だから、言っただろう。道具の本分を果たすのみ。自我を極限まで排除してこそ、道具は道具たり得る」
 引き金に掛かっていた男の指が、動く。アレクサンダーは静かに目を瞑り、死を覚悟した。――そのときだ。
「道具の矜持か。矜持を持てるだけの自我はあるようだな」
 アレクサンダーの背後から、どこか聞き覚えのある気がする男の声が聞こえてきたのだ。驚くアレクサンダーは瞼をカッと開く。それと同時に声と風が、アレクサンダーの横を吹き抜けていった。
「ならばその自我、叩き潰してやろう。そうすれば完璧な道具になる」
 否。アレクサンダーの真横を通り抜けたのは風ではない。投擲された一本の鉄パイプが、さながら投げ槍のように通り過ぎていったのだ。
 投げられた鉄パイプは、アレクサンダーに照準を定めていた拳銃に命中し、拳銃のグリップに突き刺さる。鉄パイプは拳銃と共に、地面へと落ちた。
 するとまた、アレクサンダーの背後から鉄パイプが飛び出してくる。今度は五本も同時に投擲され、それは全て“道具”を自称した男の体に突き刺さった。彼の両腕を、両足を、右胸を、鉄パイプが貫く。そしてまた間髪を入れずに鉄パイプが飛んできた。それは男の腹部に穴を開けると、その体を貫通して突き抜けていった。
 鉄パイプの襲撃を受けた男は地面に膝をつき、顔を下に向けると、堪え切れなくなったように赤黒い血を吐き出す。地に伏す男は視線だけを上げると、血走った目でアレクサンダーの後ろに立っていた人物を睨み据えた。「……お前ッ……!」
「久しぶりだな、ペルモンド。いや、今の貴様は“猟犬アルファルド”だったか?」
 アレクサンダーの前に、声の主は歩み出る。それは黒いスーツを纏い、黒いサングラスで目を隠した、枯草色の髪の男だった。
 枯草色の髪の男は、地に伏す男の前で立ち止まると、地に伏す男の頭を踏み付ける。相手の顔を地面に押し付けながら、枯草色の髪の男は言った。「今すぐ“ペルモンド”を出せ。ヤツに話がある」
「――久方ぶりに陽の目を見たんだ。簡単に引っ込むと思うか?」
「貴様の都合など知ったことか。さっさとペルモンドにその体を明け渡せ。それか、黒狼をここに呼び出したほうが話は早いか? 必要ならば、すぐにでも犬笛を吹いてやろう」
 そう言うと枯草色の髪の男は、どこからか剣を取り出した。何もない空間から生えてくるように現れた粗末な剣は、枯草色の髪の男の手に収まることはなく、宙にふわふわと浮く。そこに磁力でもあるかのように、剣は浮いていた。
 すると剣が枯草色の髪の男の舌打ちと共に、ひとりでに動き出す。剣は血反吐を吐く男に止めを刺すように振り降ろされた。それと同時に、男の体にそれまで刺さっていた鉄パイプが抜けていき、それは枯草色の髪の男の足下に並んだ。そして枯草色の髪の男は言う。
「モーガンから聞いている。貴様は不死身なんだろう? 脳を電熱で焼ききろうが、動脈を傷つけようが、心臓を握りつぶそうが、体をぎったぎたに刻もうが、何をしても必ず生き還るそうじゃないか。どうせなら、ここで試してみるか?」
 剣がひとりでに舞う。バイオレンスな振舞いを見せる枯草色の髪の男は妖しく笑い、血はあたり一面に巻き散らされていた。
 今、目の前で起こっている出来事は、幻覚なのか、現実なのか。それとも何かタネがあるマジックの類か、完全なる魔法、もしくは悪い夢なのか? ――アレクサンダーは自分の目を疑いながら、そんなことを考える。すると、アレクサンダーの腕が引かれた。
上官(サー)があれの動きを封じているうちに、早く! ついてきなさい!!」
 ぼうっとするアレクサンダーの腕を引っ張ったのは、いつの間にか彼女の背後に来ていたパトリック・ラーナーだった。彼はアレクサンダーの腕を引っ掴むと、彼女を引き摺るように走る。そして彼はアレクサンダーを裏通りに誘導し、その先に停まっていた黒いSUVの中にアレクサンダーを押し込んだ。それからパトリック・ラーナーはSUVの運転席に座っていた人物に向かって、彼は鋭い声で指示を飛ばす。「ルーカン、早く車を出しなさい!」
「あれ、サーとケイはどうしたの?」
 運転席から顔を出し、パトリック・ラーナーにそう訊ねたのは派手な蛍光グリーンの眼鏡を掛けた“ルーカン”と呼ばれていた人物。彼女は暢気な声でパトリック・ラーナーにそう尋ねるが、パトリック・ラーナーは緊張感に満ちた声でその暢気な問いを跳ねのけた。
「早く車を出しなさい! アレクサンダーが大怪我をしてるんだ、さあ早く!!」
「うっそ、マジ?! 分かった、かっ飛ばすね!」
 SUVにパトリック・ラーナーも乗り込み、そのドアをしめたとき。そのタイミングで、アクセルを全開で踏む音が鳴り、エンジンの駆動音が車内に響く。車が揺れるたびに撃たれた場所が痛んで、アレクサンダーは呻き声を上げた。
 するとパトリック・ラーナーが何かを取り出す。バチバチという音を立てる何かが、アレクサンダーに向けられた。
「痛むのはほんの一瞬です。アレクサンダー、耐えてくださいよ……!」
 ぼやけているアレクサンダーの視界の中で最後に見えたのは、細かい火花を散らす光だった。それがスタンガンだと理解したとき、アレクサンダーの体に強烈な電流が流れ、そのまま彼女は意識を失う。最後に聞こえたのは“ルーカン”の甲高い悲鳴と、パトリック・ラーナーの罵声だった。


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